東洋に、こんな言葉がある。

「師を真似ることを求めず、師の求めたものを求めよ」

それは、表面的な模倣ではなく、内にある“志”や“本質”をつかみ取れ、という教えだ。

この言葉は、今の私たちにも大きなヒントをくれる。
たとえば、過去にうまくいった“協働の形”をただ再現するだけでは、今という時代には合わないかもしれない。
本当に目指すべきは、「過去の成功体験」ではなく、「それを支えた精神」そのものを再構築すること。

この記事では、「真似ること」と「本質を追求すること」の違いを明らかにしながら、人と人との間に新しい“相乗効果(シナジー)”を生み出すために、どんな姿勢が求められるのかを探っていく。


■ 真似ることは安心をくれるが、成長を止めることもある

誰かのやり方をそのまま真似るのは、ある意味では効率的だ。
たとえば、過去にうまくいった会議の運営方法や、成功したプロジェクトの流れを再現することで、一定の成果は得られる。

しかし、それがそのまま「今ここ」に通用するとは限らない。
・チームの顔ぶれは変わっている
・市場の状況も変化している
・メンバーの価値観も、技術も、求めるスピードも違う

つまり、過去の「やり方」だけを再現しても、同じ結果にはならないのだ。


■ 過去の体験の“構造”を理解する

ここで大切なのは、「あのとき、なぜうまくいったのか?」という問いである。

たとえば、ある組織で、異なる部署が連携して大きな成果を出した経験があるとする。
その体験を「同じ手順でやれば再現できる」と思うかもしれない。
だが、その裏側には次のような構造があったのではないだろうか。

・メンバー全員が“目的”を共有していた
・立場の違いを超えて、耳を傾け合っていた
・互いの強みを認め、補完し合っていた

このように、“うまくいった本質”を見抜くことができれば、過去と異なる状況でも“新しいシナジー”をつくることが可能になる。


■ 新しい目的、新しい関係、新しい可能性へ

人と人との関係性は、生きている。
だからこそ、協働や対話も“その場に応じた新しいあり方”を見出すことが必要になる。

私が過去に関わった教育機関の改革プロジェクトでは、5年前に成功したモデルを、まったく新しいメンバーで再現しようとしたが、うまくいかなかった。
そのとき、「もう一度、ゼロから話し合いましょう」と切り出した担当者がいた。
過去の成功に固執するのではなく、「今、ここにある目的」に立ち返ったのだ。

結果的に、その場で生まれたのは以前とはまったく異なる協力体制であり、新しい視点と関係性に基づいた“その場限りの最適解”だった。
過去の「型」をなぞらなかったからこそ、より高い目的に近づけたのだ。


■ 「目的を共有する」というシナジーの起点

相乗効果は、異なる人同士が“違いを生かし合う”ときに起こる。
ただし、それが機能するには一つだけ絶対的な条件がある。
それが、「目的の共有」である。

「私たちは、なぜ一緒にいるのか」
「このプロジェクトは、何を達成するために存在するのか」
「この対話で、何を生み出そうとしているのか」

こうした問いに対して、メンバー全員がそれぞれの言葉で語れる状態。
それが、“型にはまらない創造的な協働”を可能にする。


■ 本質を生かすことで、関係性も深くなる

「師の求めたものを求めよ」という言葉にあるように、尊敬する人の“行動”を真似るよりも、その人が「何を大切にしていたのか」に目を向けることが、真の継承になる。

これは人間関係にも言えることだ。
たとえば、先輩や親、上司が行っていたことをそのまま繰り返すのではなく、「なぜそうしていたのか?」を問い直すことで、新しい文脈に応じたやり方が生まれる。

結果として、ただの模倣ではない、“自分のものとしての協働”が育っていく。
それは、より深い信頼関係と、より高い成果を生み出す土台となる。


■ おわりに──“高い目的”が新たなシナジーを導く

過去に成功したパターンを真似るのは簡単だ。
しかし、それは“再現”にすぎない。
今の状況に合わせて、目的を再定義し、関係性を築き直し、視点を交わす。

そうして初めて、過去とは異なる、今この場の“本物の協働”が生まれる。

人と人が一緒に何かを生み出すということは、常に“創造行為”である。
だからこそ、「何を求めるのか」という志が、方向を決める。

あなたも、過去の型をなぞるのではなく、その先にある“より高い目的”に向かって、新たな関係を育てていこう。

そうして生まれたシナジーこそが、未来を動かす原動力になるのだから。