「今よりもっと自由に、豊かに暮らしたい」
そう願うのは当然のことだ。

収入を増やし、ゆとりある生活を送りたい。
旅行や外食を楽しんだり、将来のために投資をしたり、大切な人に感謝の気持ちを形にしたり。

こうした願いを叶える手段として、“元手(元金)”を使うという発想がある。
たとえば貯金を切り崩して生活費を補ったり、退職金に手をつけて趣味や事業を始めたりするケースだ。

一見合理的なように見えるが、実はここに落とし穴がある。

それが、「金の卵を産むガチョウを殺してしまう」という発想である。


金の卵を産む「ガチョウ」とはなにか?

たとえば、あなたが1,000万円の元金を持っていたとしよう。
これを年3%で運用すれば、年間で約30万円の利息が生まれる。

この30万円が「金の卵」であり、1,000万円という元金が「ガチョウ」にあたる。

もし、金の卵だけで満足し、それを大切に使っていれば、ガチョウは元気なまま、翌年も金の卵を産み続けてくれる。

しかし、どうしてももっと多くを手にしたくなり、ガチョウそのもの──つまり元金に手をつけてしまったらどうなるか。

元金が減ると、利息も比例して減っていく。
結果、金の卵も少なくなり、さらにガチョウを削りたくなっていく。

こうして、元金の“自己破壊スパイラル”に陥ってしまうのだ。


生活の満足度が、ゆるやかに下降する仕組み

はじめのうちは、元金が少し減ったところで、生活は大きく変わらない。
「あと900万円あるから、まあ大丈夫」と思う。
ところが、一度“元金に手をつける癖”がついてしまうと、次第に残高は減っていく。

利息も減る。
生活の余裕も減る。
そして、なにより「安心感」が減っていく。

最終的には、元金が少なくなりすぎて、生活の最小限のニーズさえも満たせない状態になってしまう。

これは金銭的な話だけではない。


「資源の元金」は、時間・信頼・体力にも当てはまる

お金に限らず、私たちは人生のなかで“元金”をいくつも持っている。

・健康(=体力の元金)
・人間関係(=信頼の元金)
・知識・スキル(=知的資本の元金)
・時間(=人生という資源の元金)

これらを粗末に扱えば、いくらその場しのぎの“卵”を手に入れたとしても、やがて元金が枯れてしまう。

たとえば、睡眠時間を削って働けば、一時的に仕事の成果(卵)は出るかもしれない。

しかし、それを続けていれば、体力という「ガチョウ」はやがて限界を迎える。


実例:会社経営で起きた“元金の崩壊”

かつて、ある中小企業の経営者がこんなことを語ってくれた。

「社員が疲弊していても、“今はがんばり時”だと言って、休日返上で働かせた。
売上は上がったけれど、ある日、突然辞める人が相次いだ。
信頼という資産を、無意識のうちに削ってしまっていたんだ」

この経営者は、数年かけて関係を修復し、「人が辞めない会社」を再構築したという。

人間関係も、信頼も、回復には時間がかかる。
だからこそ、“資源の元金”に手をつけない慎重さが必要なのだ。


守るからこそ、増えていく

豊かさを築くために重要なのは、「いかに元金を減らさずに回していけるか」という視点だ。

そのためにできることは──

・お金:利息や配当だけを使い、元本には手をつけない
・健康:定期的な運動と休養を惜しまない
・信頼:一貫した言動と誠実な対応を日々積み重ねる
・時間:緊急ではないが重要なことに時間を使う

こうした小さな行動の積み重ねが、やがて“金の卵”を生み続ける循環を生み出す。


おわりに──あなたの「ガチョウ」は元気ですか?

焦らず、元金を守りながら、その“卵”だけで生活を組み立てていく視点があれば、人生は持続可能な豊かさを手に入れることができる。

そして気づくはずだ。本当の自由は、増やすこと以上に、守る知恵にあるのだと。

あなたの人生を支える“ガチョウ”たち──
お金、時間、健康、信頼。
どうか、今のうちに声をかけてあげてほしい。

「まだ元気でいてくれて、ありがとう」と。