導入:責任を渡すことが、突き放すことに感じていませんか?

「部下に仕事を任せたいけれど、放り出すことにならないか不安」
「責任を持たせると、かえって相手にプレッシャーを与えてしまうのではないか」
「つい自分で抱え込んでしまい、人が育たない」

そんな悩みを抱えるリーダーやマネージャーは少なくありません。
実際、私自身も「任せる=突き放すこと」だと長く誤解していました。
任せたあとの失敗を恐れ、細かく指示を出しすぎたり、結局最後は自分で仕上げたり……。
そうして、いつの間にか周囲から「頼られるけど、育たないチーム」になっていたのです。

しかし、ある原則に気づいたことで、私のマネジメントは大きく変わりました。

それは、「主体性は、すでにすべての人の中に眠っている」ということです。


第1章:「任せること」と「突き放すこと」の決定的な違い

「責任を持たせること=冷たい行為」だと感じる人は少なくありません。
しかし本質的には、“任せる”ことこそが信頼の表現であり、相手を“考える存在”として認めることでもあります。

逆に、何でも手を出してしまう・代わりに決めてあげるというのは、相手の主体性を信じていないことの裏返しとも言えます。
子育てや教育、リーダーシップ、コーチング……いずれの現場でも「任せる=尊重」であるという考え方が、長期的な人材育成に欠かせないのです。

突き放すのではなく、「支えながら信じる」こと。それが本当の任せ方なのだと、私は現場で学んできました。


第2章:主体性は「与えるもの」ではなく「すでにあるもの」

主体性とは、生まれつき誰もが持っている人間の本質の一部です。
それはまるで「使われていない筋肉」のようなもので、眠っていても、なくなってはいません。

ただ、周囲がそれに気づかず「代わりにやってあげる」ことを続けると、次第に使う機会を失い、本人も「どうせ私にはできない」と思い込むようになります。

たとえば新入社員に何もかも教え込み、言われた通りにしか動けなくなってしまうのは典型です。
一方で、「これはあなたに任せるね。
分からないときは聞いていいから」と伝えるだけで、目の色が変わることもあります。

これは、「信じてもらえた」という経験が、その人の中に眠る力を呼び覚ます瞬間なのです。


第3章:信じて任せたとき、人は“本当の姿”を見せてくれる

私の実体験からお話しします。

あるプロジェクトで、経験の浅い後輩に進行管理を任せたことがありました。
最初は不安もありましたし、彼自身も「本当に自分にできるんでしょうか」と戸惑っていました。
けれど、私は明確な目的だけを共有し、「あとは任せる」とだけ伝えて見守ることにしました。

結果、彼は何度も悩みながらも、自分の頭で考え、自分の言葉でチームを動かすようになったのです。
途中でつまずくこともありましたが、だからこそ自分の成長を実感できたようでした。

この経験を通じて私は、「任せることは、相手に本来の力を取り戻させることなのだ」と実感したのです。


第4章:人の可能性を信じるときに必要なのは、こちら側の“姿勢”

主体性は見えません。だからこそ、信じるという行為そのものが難しい。
でも、信じることを選び、支える姿勢を貫いたとき、少なくともひとつの「歪みのないまなざし」を相手に与えることができます。

このまなざしは、その人にとって「こう見られた自分になりたい」という内発的な動機を生み出します。
つまり、私たちが他者の主体性を尊重するとき、その人が「誠実で前向きな自己像」に近づくきっかけをつくることができるのです。


第5章:任せることで、相手だけでなく“あなた自身”も変わる

任せることに挑戦すると、変わるのは相手だけではありません。
実はそれ以上に、自分自身のあり方が問われ、磨かれていきます。

  • 「口を出したくなる自分」を抑える

  • 「結果を急ぎたくなる自分」と向き合う

  • 「信じ切れない不安」を乗り越える

このプロセスは決して楽ではありませんが、その先にあるのは、チームの力を最大化するマネジメントの核心です。


まとめ:任せることは、その人の未来を信じること

責任を渡すことは、突き放すことではない。
それはむしろ、その人の“主体性という可能性”を認める行為です。

私たちが誰かに任せるとき、その人の本質的な力を信じ、「あなたにはできる」と伝えることができます。
そして、その信頼こそが、相手の変化を生み出す最初の一歩になるのです。

今日、あなたの目の前にいる誰かに、ひとつの小さな仕事でもいい。
「任せてみる勇気」を持ってみませんか?

きっと、あなたが思っている以上に、その人は“本当の姿”を見せてくれるはずです。