人を導く立場にある者ほど、「揺れ」に悩むことがある。
その揺れとは、自分の態度がいつの間にか“厳しすぎる”か“譲りすぎる”の両極を行ったり来たりしてしまうことだ。
多くの経営者、管理職、そして親たちは、無意識のうちにこの振り子の中に閉じ込められている。
第1章 なぜ人は「振り子」に陥るのか?
ある中堅企業の管理職がこんな悩みを打ち明けた。
「部下が思うように動いてくれない。厳しくすれば反発される。
優しくすればなめられる。どっちに振れても、うまくいかないんです」
この言葉に象徴されるように、指導する立場にある人は“結果を出す圧力”と“人間関係を壊したくない不安”の間で揺れている。
その結果、次のようなループが起きる。
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チームが混乱し、秩序が乱れる
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「仕方ない」と思いつつも、苛立ちが募り、強い態度=Win-Lose(勝ち負け思考)に傾く
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その後、自責や後悔、良心の呵責から、「自分さえ我慢すれば」とLose-Win(自己犠牲)に振れる
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しかし、再び成果が出ず、怒りが爆発してWin-Loseに逆戻り
このように、人間関係におけるバランスを失うことで、信頼残高は徐々に目減りしていく。
第2章 Win-LoseとLose-Winの共通点
一見、正反対のように見えるこの2つのスタイルには、ある共通の問題がある。
それは、「どちらも自分か相手、どちらかを犠牲にしている」という点だ。
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Win-Lose:自分の正しさを押しつけ、相手をコントロールしようとする。信頼より支配が勝る。
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Lose-Win:相手の期待に応えすぎて、自分を見失い、結果的に関係の健全さが壊れる。
どちらも「対等な関係性」を損ねている。
親子でも同じことが起きる。
親が「子どもをコントロールしなければ」と思い詰めれば、過干渉になり、Win-Loseになる。
反対に「子どもが傷つかないように」と先回りしすぎれば、Lose-Winになり、子どもの自立を奪う。
第3章 実績が物語る「第三の道」
私のクライアントのひとりに、中小企業の創業者がいた。
彼は長年、従業員に対して「俺についてこい」というタイプだった。だが、人材が定着せず、離職率が高い状態が続いていた。
そこで彼に、ある問いを投げかけた。
「あなたは勝ちたいのですか、それとも影響を与えたいのですか?」
彼は悩み抜いた末に、方向性を変えた。
従業員との1on1を始め、相手の価値観を聴くことに時間を割いた。感情的に怒ることをやめ、互いの納得点を探るようになった。
1年後、従業員満足度は向上し、自然とチームの生産性も上がっていた。
「勝つこと」を手放したとき、「信頼されるリーダー」になっていた。
第4章 信頼を築くための「安定軸」を持つ
振り子のように揺れないために必要なのは、自分の中に揺れない軸=原則を持つことだ。
この軸があれば、相手の反応に振り回されず、「強く、かつやさしく」対応することができる。
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子どもを叱るときにも、人格ではなく行動に焦点を当てる
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部下を指導するときにも、失敗を否定せず、成長の材料と捉える
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経営判断においても、自分の短期的な感情ではなく、長期的な価値に照らして決める
このような姿勢を持つことで、人との関係は「支配」でも「依存」でもない、相互の成長を支え合う関係へと変わっていく。
第5章 まとめ:強く、やさしく、ブレずに立つ
振り子のように揺れるリーダーシップでは、組織も家庭も安定しない。
真の影響力とは、「自分が何者でありたいか」を明確にし、それに基づいて一貫した行動をとることにある。
人に対して厳しくあるためには、自分にも厳しくなければならない。
人にやさしくするためには、自分の軸が整っていなければならない。
“勝つ”のではなく、“共に勝つ”ことを目指す姿勢こそが、信頼を育む。
それができるリーダーに、人は安心し、自ら動き始める。
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