子育ての中で、親が疲れを感じる瞬間の一つが「またトラブル?」と子どもが問題を持ち込んできたときではないだろうか。

宿題を忘れた。友達とけんかした。先生に叱られた…。
そんな場面で、つい口をついて出る「いいかげんにして」や「どうしてまた同じことを!」という言葉。
けれど実は、こうした問題の中にこそ、親子の関係を深める大きなチャンスが潜んでいる。


1章 子どもの問題は“親の試練”ではない

子どもが問題を抱えているとき、多くの親は「また面倒なことが起きた」とため息をつく。
だが、その反応は往々にして無意識のもので、親自身の疲れや不安から来ている場合が多い。

私が出会ったあるお母さんは、息子さんが毎日のように学校でトラブルを起こし、連絡帳には先生からの注意がびっしりと書かれていた。
「もう限界…」と相談に来られた彼女に、私はこう問いかけた。

「あなたの息子さんが困っているとき、あなたが力になれるとしたら、それって嬉しいことじゃありませんか?」

しばらく沈黙した後、彼女は「そんなふうに思ったことはありませんでした」とつぶやいた。


2章 「問題」ではなく「信号」として受け取る

子どもが何か問題を起こすとき、それは単なる行動上のトラブルではなく、「わかってほしい」「見てほしい」「支えてほしい」というメッセージかもしれない。

問題を「迷惑な出来事」と捉えるか、「子どもが差し出す対話のきっかけ」と受け取るかで、親の対応は大きく変わる。

ある中学生の男の子は、些細なことで母親に反発し続けていた。
しかし、母親が彼とゆっくり話す時間を毎晩10分取るようになっただけで、驚くほど落ち着いてきた。

「ただ聞いてもらえたことが嬉しかったんだと思います」と母親は語った。


3章 親が“解決者”になる必要はない

子どもの問題を聞いたとき、すぐにアドバイスしたくなるのが親心だ。
しかし、本当に必要なのは「答え」ではなく「理解されること」である。

私は以前、小学生の娘さんを持つお父さんから「子どもが何度言っても同じ失敗をする」と相談された。
「で、どうしてるんですか?」と聞くと、「つい説教しちゃいますね」と苦笑い。

そこで私は「今日はアドバイス禁止で、ただ“うん、そうか”と聞いてあげてください」と提案。
翌日、「びっくりしました。娘が“ありがとう、パパ”って言ったんです」と報告を受けた。

解決はまだ先だとしても、「この人は自分の味方だ」と感じることが、子どもにとって何よりの支えとなる。


4章 尊重するとは、沈黙を恐れないこと

親子の会話で大事なのは、「沈黙を埋めること」ではなく、「沈黙を受け入れること」である。

子どもが問題を抱えているとき、うまく言葉にできないことが多い。
親がその沈黙に耐えられずに質問を重ねると、子どもはさらに心を閉ざしてしまう。

ある高校生の女の子が学校を休みがちになった時、母親は焦りながらも毎日「無理に話さなくていいよ。
お母さんはここにいるよ」とだけ声をかけ続けた。

2週間後、「今日だけ、学校行ってみようかな」と彼女はぽつりとつぶやいたという。

信頼は、静けさの中でも育まれる。


5章 親子関係は“変わり続けるもの”

親子の絆は、年齢や環境の変化に応じて常にかたちを変えていく。
「今さら関係なんて変わらない」と思う必要はない。

私が以前コーチングした50代のお父さんは、大学生の息子と距離を感じていたが、ある日ふと息子のバイト先に立ち寄って「頑張ってるな」と声をかけた。
それがきっかけで、数年ぶりに一緒に食事をするようになったという。

親が歩み寄ろうと決めた瞬間、関係は変わる可能性を持ち始める。
たとえ小さな一歩でも、それは「親子の再構築」への第一歩だ。


終章 子どもの問題を“贈り物”と考えてみる

「またか」と思う前に、立ち止まって考えてほしい。
この子は今、どんな助けを求めているのか?
今、親である自分にできる最善は何か?

子どもが問題を持ってきたときこそ、関係性を深めるチャンスである。
それに気づいたとき、親の中にも変化が生まれる。
支えるとは、共に変わることなのだ。