「この案でいこう」
「いや、絶対にこっちのほうがいい」

そんな言い合いに、心当たりはないだろうか。
職場でも家庭でも、「自分の正しさ」を主張し合う場面は日常的にある。
だが、その多くが行き着くのは、譲れずに決裂するか、どちらかが我慢して不満を抱える結末だ。

ではどうすればいいのか。
鍵となるのが、「第3の案」という考え方である。
それは、あなたの案でも、私の案でもない。
もっとよい方法、もっと高いレベルの解決策を、信じて探しにいくこと。
真の意味でのWin-Winは、そこからしか生まれない。


第1章 意見の対立は「視点の違い」にすぎない

意見がぶつかるとき、人はつい「相手が間違っている」と考える。
だが実際は、どちらも正しいのかもしれない。
たとえば、ある職場での会議──

「納期を守ることが最優先」という営業部長と、「品質こそが信頼の証」という開発リーダー。
正反対に聞こえるが、どちらも会社を想っている。

このとき、どちらかが折れては、本当の信頼は築けない。
両者の価値観を尊重した「第3の案」が求められるのだ。

対立は悪ではない。
それは、多様な視点がある証であり、違いがあるからこそ、創造が生まれる。
だからこそ、対立の“質”を高める必要がある。


第2章 Win-Winは「妥協」ではない

誤解されがちだが、Win-Winとは「半分ずつ我慢する」ことではない。
たとえばこんなケースがある。

私は以前、ある教育系ベンチャーの経営支援に関わった。
代表は「全国展開を急ぐべきだ」と言い、共同創業者は「まず地域密着で足場を固めたい」と主張していた。

どちらも強い意志があり、議論は平行線だった。
だが、ヒアリングを重ねた結果、私たちはある可能性に気づく。

「地域密着モデルを確立し、成果を数値化したうえで、他地域に“仕組みごと”展開する」

それが“第3の案”だった。
両者が納得し、計画が前進した瞬間だった。

Win-Winとは、どちらも満足できる新しい道をつくることである。
それは、想像力と誠実さがなければ生まれない。

そして何よりも、「もっと良いものがあるはずだ」と信じる力が必要だ。


第3章 第3の案を導くための3ステップ

では、どうすれば“もっとよい何か”を見つけられるのか。
私が実践してきた3つのステップを紹介する。

① 相手の「本音」を理解する

相手の言葉の裏にある“なぜそれを望むのか”という背景を聴く。
立場や役割ではなく、感情や価値観に目を向ける。

② 自分の「本音」も誠実に伝える

表面上の主張だけでなく、自分が本当に大切にしているものを語る。
強がらず、素直に。

③ 共通の目的を再確認する

何のために議論しているのか──目指すゴールを共有する。
すると、両者が手を取り合う理由が見えてくる。

この3ステップは、たとえ結論に時間がかかっても、信頼と納得を伴った解決を可能にする。
急がず、対話を続ける勇気が問われる。


第4章 家庭でも仕事でも、すべての関係に効く

Win-Winの発想は、ビジネスだけでなく、家庭や友人関係にも活かせる。
たとえば私の友人は、息子との“進路”をめぐる話し合いでもこの考え方に救われた。

親としては「安定した仕事を」と願い、息子は「自分の好きな道を突き進みたい」と譲らない。

当初は互いに譲れず、膠着状態だった。
だがあるとき、友人はただ息子の話を“聴く”ことに徹した。

彼が何にワクワクしているのか、なぜその道を選びたいのか。
聞けば聞くほど、「安定=幸せ」と決めつけていた自分に気づいた。

結果として、息子は「専門学校で学びながら、副業的に安定収入も確保する」道を自分で見つけた。
まさに“第3の案”だった。

親子関係においても、相手を“変える”のではなく、共に“理解する”ことが出発点になる。
それがあれば、沈黙すらも安心の時間に変わる。


終章 信じることが、すべての始まり

「あなたでも、私でもない、もっとよい方法がある」

この考えを本気で信じられるかどうかが、Win-Winの出発点である。
信じなければ、探すことさえしない。
信じれば、時間をかけてでも必ず辿り着ける。

その先にあるのは、「勝ち負け」ではなく、「共に満たされる関係」だ。
相手と向き合うその姿勢こそが、人生の質を高めてくれる。

そして、これからも誰かと協働し続ける限り、“第3の案”を探す旅は続く。
それは、対立や違いを恐れず、むしろ希望として見る眼差しだ。


一方が折れる関係ではなく、互いが高まる関係を。
それが、ほんとうの意味で“強い人間関係”なのだ。