「本音を言うと嫌われそうで怖い」
「正直になりたいけれど、波風を立てたくない」

そんな思いを抱えながら、人間関係にモヤモヤを抱えている人は多い。
私自身、以前はまさにそうだった。
表ではニコニコしながら、裏で共感するフリをする。
場を丸く収めることを“うまさ”だと信じていた。

だが、ある出来事をきっかけに私は変わった。
「本当の信頼」は、言いにくいことを言える関係の中にこそ生まれるのだと知ったからだ。

今回は、信頼される人が大切にしている“誠実さ”について、私の実体験や支援した事例を交えて書いていきたい。


1. 誠実とは、誰に対しても同じ軸で接すること

誠実とは、単に「正直であること」ではない。
それは、誰に対してもブレない“原則”を基準にして接する姿勢だ。

上司にはへりくだり、後輩には横柄な態度をとるような人は、いくら言葉が丁寧でも誠実ではない。
その人の“軸”が見えないから、周囲は信頼しようがないのだ。

私は企業研修で何百人ものリーダーを見てきたが、チームから信頼されている人は、部下にも、上司にも、外部のスタッフにも、一貫した態度で接している。
その姿勢が、「この人は表裏がない」と感じさせ、安心感と尊敬を生んでいる。


2. 誠実さには「嫌われる勇気」が必要

しかし誠実さは、必ずしも心地よく受け入れられるとは限らない。
ときには、相手が望んでいない“耳の痛いこと”を伝える必要もある。

たとえば、プロジェクトの遅延が明らかにその人の準備不足によるものであれば、「それはあなたの責任です」と言わなければならない。
これは、相当な勇気がいることだ。

ほとんどの人は、摩擦を避けようとする。
だから、本人には言えないことを、いないところで言ってしまう。
陰口や愚痴はその場の安心感をもたらすが、長期的には信頼関係を壊す元になる。

本当に相手を思うなら、正直に、かつ親切に、本人に伝えることが必要なのだ。


3. 私が誠実を選んだ瞬間と、その後の変化

かつての私は、人間関係に波風を立てるのが怖くて、注意すべき場面でも笑って流していた。
部下の報連相に問題があっても、「まあ、今回は仕方ないね」と見過ごしていた。

だがあるとき、同僚がこう言った。
「あなたが何も言わないのが、一番信じてくれてないって感じる」

ハッとした。
それは“優しさ”ではなく、“自分が嫌われたくない”という保身だったのだ。

そこから私は、相手を大切に思うからこそ、言いにくいことも伝えるようにした。
もちろん、最初は勇気が必要だった。
だが驚いたのは、伝えたあとにこそ、関係性が一歩深くなることが多かったということだ。


4. 表裏なく生きることで、信頼は積み上がる

信頼は、一瞬で築けるものではない。
小さな行動の積み重ねによって、じわじわと育っていくものだ。

・どんな立場の人にも態度を変えない
・陰口や愚痴には加わらない
・その場にいない人のことを、まるで本人がいるように話す

こうした姿勢を貫いている人は、自然と信頼されるようになる。

逆に、「その場の空気を読んで合わせる」ことばかりを優先する人は、どこか信用されない。
なぜなら、“本音”が見えないからだ。


5. 正直と親切は、セットで伝える

誠実に伝えるとは、ただ「言いたいことを言う」ことではない。
重要なのは、“相手の立場を尊重しながら”本音を届けることだ。

伝え方にも工夫がいる。
・「あなたを責めたいわけじゃない」
・「このことを一緒に解決したいと思ってる」
・「だから、今伝えておきたい」

このように、相手を思っていることを前提にしながら伝えると、信頼はむしろ深まる。

誠実さは、短期的にはリスクがあるかもしれない。
だが、長い目で見れば、人から最も求められる資質の一つになる。


おわりに

本音で生きることは、簡単ではない。
相手にどう思われるかが気になるのは、人として当然だ。

だが、言いにくいことから逃げずに向き合うことで、関係は本物になる。
それができる人だけが、本当の信頼と尊敬を得られるのだ。

誠実とは、相手を大切に思うことを“行動”で示すこと。
そしてそれは、毎日の小さな選択から始まる。