「部下が自分で考えて動いてくれない」
「何度言っても指示待ちのまま…」
そんな悩みを抱えるマネージャーは少なくありません。

一方で、優秀なチームほどメンバーが自律的に動き、マネージャーは細かく管理せずとも成果を出しています。
その違いは、管理能力ではなく「信頼関係の構築方法」にあります。

その鍵となるのが、「Win-Win実行協定(Win-Win Agreement)」です。
これは、マネージャーとメンバーが“お互いの成功”を前提に結ぶ約束。
協定があるチームでは、メンバーが自ら考え、マネージャーは支える側に回れます。

今回は、私自身の経験を交えながら、「人が自ら動くチーム」をつくるための実行協定の考え方とつくり方を紹介します。


第1章 マネージャーの役割は“指示”ではなく“支援”

かつての私は、いわゆる“管理型マネージャー”でした。
タスクを細かく割り振り、進捗を逐一確認する。
しかし、結果は思うように出ませんでした。
メンバーは受け身になり、ミスを恐れて挑戦しなくなっていたのです。

あるとき、ある言葉に出会いました。
「マネージャーはペースメーカーである。レースが始まれば、コースを外れなさい。」
つまり、スタートを導くのが仕事であり、その後は見守る勇気が必要なのです。

管理するよりも「任せる」。
その切り替えこそ、マネージャーの本当の役割だと思います。


第2章 Win-Win実行協定とは何か

Win-Win実行協定とは、マネージャーとスタッフが“お互いの目的を一致させる”ための取り決めです。
それは「上司が命令する契約」ではなく、「対等な立場で交わす約束」。

たとえば、以下のような形でまとめます。

  • 目標:どんな成果を目指すのか

  • 方法:どのように進めるか

  • 評価基準:何をもって成功とするか

  • サポート:マネージャーが提供できる支援内容

この4つを明確にしておくことで、メンバーは自分で考え、自分で決められるようになります。
上司は逐一指示する必要がなくなり、責任の所在も明確になります。

「自由には責任が伴う」という言葉がありますが、この協定はまさにそのバランスをとる仕組みなのです。


第3章 実行協定がチームを強くする理由

実行協定の本質は、“信頼”と“主体性”にあります。

人は、信頼されると力を発揮します。
「あなたに任せた」と言われた瞬間、心のスイッチが入るのです。
それは子どもにおつかいを頼んだときと同じ。
責任をもたせることで、自ら考え、行動するようになります。

逆に、常に監視されていると、人は「どうせ上司が決める」と思ってしまう。
自分の判断で動く意欲を失ってしまうのです。

Win-Win実行協定は、「任せること=放任」ではなく、「信頼を前提とした自律の場づくり」です。
この枠組みがあるからこそ、マネージャーも安心して任せられる。
双方に“自由と安心”が生まれるのです。


第4章 Win-Win実行協定のつくり方:5つのステップ

私が実際にチームで実践してきたステップを紹介します。

① ゴールを一緒に決める

「何を達成したいのか」を、マネージャーだけでなくメンバーと共有します。
トップダウンではなく、対話から始めることが重要です。

② 成功の基準を明確にする

「どの状態を“できた”とするか」を具体的に定めます。
あいまいな目標ほど混乱を生みます。

③ 権限と責任の範囲を定める

「どこまで自分で判断していいか」を話し合います。
権限が不明確だと、メンバーは行動をためらいます。

④ マネージャーが支援できることを約束する

「困ったときはいつでも相談できる」「必要なリソースは確保する」など、上司のサポート範囲を明示します。

⑤ 定期的に振り返る

実行協定は“固定契約”ではなく“成長契約”です。
数か月ごとに見直すことで、信頼が積み重なります。


第5章 マネージャーの勇気——手放すことが信じること

最も難しいのは、「任せた後に口を出さないこと」です。
マネージャーは、つい「確認」「修正」「助言」を繰り返してしまいます。
しかし、信頼とは“待つ勇気”でもあります。

私は、あるプロジェクトでメンバーにすべてを任せたことがあります。
最初は不安で仕方ありませんでした。
でも、結果的にそのチームは、私が指示していたときよりも高い成果を上げました。

彼らが力を発揮したのは、「信頼されている」と感じたからだと思います。
マネージャーは、ペースメーカーのようにスタートを導き、あとはコースの外から見守る。
その姿勢こそ、チームを成長させる最強のマネジメントなのです。


まとめ 「任せる勇気」がチームを変える

Win-Win実行協定は、単なるルールではなく「信頼の枠組み」です。
その協定があれば、メンバーは自ら考え、マネージャーは支援に集中できます。

部下が成長すれば、マネージャーも成長します。
お互いのWinが重なるとき、チームは自然と動き出すのです。

今日から、小さな協定を一つつくってみてください。
「今回はこの範囲で任せてみよう」
その一歩が、チームを自律に導く最初のサインになると思います。