「上が決めないと動けない」「制度が変わらないから仕方ない」。
企業でも自治体でも、そして家庭でも、こんな言葉をよく耳にします。
でも、本当にそうでしょうか?

どんな組織も、動かすのは“人”です。
そして、人が主体的である限り、組織にも主体性は宿ります。

私自身、長く企業や行政、地域活動の現場に関わる中で、「組織だから変われない」という思い込みがいかに多くの可能性を閉ざしているかを痛感してきました。

この記事では、「組織としての主体性」をどう育て、変化に翻弄されずに前進するための考え方と実践のヒントをお伝えします。


第1章 組織の“空気”を変えるのは、最初のひとり

組織が変わらない最大の理由は、「誰かが動いてくれるのを待つ」ことにあります。

以前、私が関わった企業で、こんな出来事がありました。
新しい提案制度が導入されたものの、最初の数か月は誰も投稿しませんでした。
社員たちは「どうせ採用されない」「時間のムダ」と考えていたのです。

ところがある日、若手の一人が勇気を出して「職場の備品管理を効率化するアプリ」を提案しました。
それを上司がすぐに承認し、導入したところ、他部署にも波及し、数ヶ月後には投稿数が一気に増えたのです。

たった一人の行動が、“待つ文化”から“動く文化”へと変わるきっかけになりました。
組織の変化は、最初の小さな勇気から始まるのです。


第2章 環境に翻弄される組織と、環境を活かす組織

環境の変化は避けられません。
市場、制度、人口構造、テクノロジー――。
外の変化を「悪いもの」と捉えるか、「成長のチャンス」と捉えるか。
そこに、主体的な組織と受け身の組織の違いがあります。

私は自治体職員の研修で、ある若手職員の言葉にハッとしました。
「国の方針を待っていたら、地域が疲弊してしまう。
だから、私たちは“今ある資源”でできることを動かしています。」

その町では、補助金を待たずに市民団体と連携し、空き家を改修して子どもの居場所づくりを進めていました。
後にそのプロジェクトが国のモデル事業に採択されたのです。

変化に翻弄される組織は「環境に従う組織」。
環境を活かす組織は「環境を使いこなす組織」。
前者は「制約」を嘆き、後者は「創意」で動きます。

どちらになるかは、組織の“反応の選び方”次第なのです。


第3章 主体的な文化を育てる三つの仕掛け

主体性は、スローガンでは育ちません。
日常の中に「自分で考え、動ける仕組み」を組み込むことが大切です。
私がこれまで関わった中で、効果があった仕掛けを3つ紹介します。

1. 対話の時間を“儀式化”する

週1回、15分でもいい。
上司と部下、同僚同士が“進捗”ではなく“気づき”を話す時間を持つ。
この「雑談的ミーティング」が、信頼関係を生み出し、自然と前向きなアイデアが生まれます。

2. 小さな成功体験を“見える化”する

誰かの挑戦を社内報や掲示板で共有する。
「やってみたらこう変わった」という物語が伝わると、他のメンバーも「次は自分も」と思えるようになります。
文化は仕組みよりも、“語られるストーリー”で動くのです。

3. 目的と価値観を“共有言語”にする

「私たちは何のためにこの仕事をしているのか?」
この問いにチーム全員が自分の言葉で答えられることが理想です。
目的が明確になれば、指示がなくても自律的に動ける。
主体性は“方向が見える”ところに育ちます。


第4章 家庭にも通じる、組織の原理

主体的な組織づくりは、実は家庭でも同じです。
私自身、夫婦で子育てをしていて、「誰かが我慢する関係」から「共に考え、動く関係」に変えた経験があります。

あるとき、家事分担でもめたことがありました。
「自分ばかり負担している」と思い込んでいたのです。
けれども一度、週末に“家庭会議”を開いてみました。
すると、お互いが大切にしたいこと(価値観)が違っていたと分かったのです。

それからは、「完璧な分担」よりも「納得感のある協力」を意識するようになりました。
家庭の中にも“チームの主体性”が必要だと感じた瞬間でした。

企業も自治体も家庭も、最小単位は「人と人」。
そこに信頼と目的があれば、どんな組織も変わっていけます。


第5章 組織の未来は、あなたの一歩から始まる

主体的な文化をつくるのに、特別な制度はいりません。
必要なのは、「自分にできることを探す視点」です。

・会議で小さな提案をしてみる
・チームの良い取り組みを紹介する
・誰かの挑戦を応援する

そんな一歩が、組織の空気を変えていきます。
そして、その連鎖がやがて「率先する文化」を形づくります。

どんな組織も、待つ側から動く側へ。
今日、あなたの一歩が、組織全体の未来を変えるはじまりになるかもしれません。


まとめ

組織の主体性は、“人の意志”から生まれる。
変化に翻弄されるのではなく、変化を活かす。
その選択は、いつだって一人の行動から始まります。

あなたが一歩動けば、組織は動き出す。
その瞬間、組織は「生きたチーム」になるのです。