人の話を「深く聴く」ことは、ただのスキルではない
「もっと相手の話をしっかり聴きたい」
「傾聴力を高めたい」「信頼される人になりたい」
そう願う人は多いでしょう。私自身、仕事や人間関係で“聴くことの大切さ”を何度も学んできました。
けれど、本当に相手の話を深く聴くというのは、単に頷くことや相づちを打つことではありません。
それは、自分の心を開き、影響を受ける覚悟を持って向き合うことなのです。
第1章:共感的に聴くということは、相手の世界に“入る”ということ
人の話を共感的に聴くとき、私たちは単に情報を受け取っているのではなく、相手の感情や価値観、背景や痛みに触れようとしています。
そのためには、自分の価値観を一度横に置き、「そう感じたんだね」「それは苦しかったね」と、相手の視点で世界を見ようとする姿勢が必要です。
これは簡単なことではありません。
ときに、共感することで自分の内面が揺さぶられたり、過去の傷が刺激されたりすることもあります。
第2章:共感にはリスクがある──だから「安定性」が求められる
共感による傾聴には、確かにリスクがあります。
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相手の痛みに引きずられること
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自分も傷つくこと
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自分の価値観や信念が揺らぐこと
だからこそ、共感的傾聴には強い“内的安定性”が求められるのです。
「あなたの話をちゃんと聴きます」と言うことは、「私はあなたから影響を受ける準備ができています」という宣言でもあります。
これは、単に優しい人であることとは違います。
自分の感情をコントロールし、自分軸を持ちつつ、それでも他者の世界に歩み寄る。
この“両立”ができる人だけが、本当に人の話を「深く聴く」ことができるのです。
第3章:本当に相手を理解したいなら、自分も影響を受けよ
人を変えたい、支えたい、理解したい――
そんな気持ちを持つとき、私たちはつい「与える側」であろうとしてしまいます。
けれど実際には、自分が変わらなければ、相手も変わらないのです。
本当の理解とは、「私はあなたから影響を受けました」と言える状態。
誰かを理解するとは、相手の世界に自分をさらすことでもあります。
つまり、相手に影響を与えたいなら、まずはあなたがその人から何を感じ、どう動かされるかに真剣であるべきなのです。
第4章:私が「傾聴」を恐れていたときの話
私もかつては、「聴く」ことに対して壁を感じていました。
相手の話を深く聴けば聴くほど、自分も引きずられてしまいそうで怖かったのです。
ある同僚が悩みを打ち明けてくれたとき、私はうまく返せませんでした。
「大変だったね」と言いながらも、心のどこかで距離を取っていた。
それは、自分が傷つきたくなかったからだと、後から気づきました。
でも、それ以来、自分を整えることに力を入れるようになりました。
呼吸を深くし、感情に流されないトレーニングを積み、「受け取る」ことへの覚悟を育てていったのです。
第5章:「聴く力」とは、静かなリーダーシップである
本当に人の話を深く聴ける人には、共通点があります。
それは、静かだけれど、揺るがない存在感です。
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話の途中で遮らない
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相手の言葉を正さない
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感情に巻き込まれない
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でも、共に痛みを感じられる
これこそが、信頼を生み出す力であり、「話を聴くだけで人の心を変えるリーダーシップ」なのです。
まとめ:影響を受ける覚悟こそが、深い信頼を生む
共感的に聴くということは、影響を受けることでもある。
ときに自分の心が揺れ、痛みも感じるかもしれない。
でも、それでも相手に影響を与えたいと願うなら、まずはあなたが、その人からの影響を受け入れる勇気を持ってほしい。
そのとき初めて、あなたの「聴く力」は、ただのテクニックではなく、人を深く動かす“在り方”へと変わっていくのです。

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